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バンクーバーの利点・サラ・チャン・4

去年の十二月にやってきたピアニスト・ラン・ランはその技巧とおそらくは派手な動きでご婦人方のハートをつかんでいるのでしょう、ほぼ満席。ラッシュチケットで買えた席はオーケストラ席(orchestra seats=北米では劇場の一階席のこと)の最後部、おそらく普段は使わないのではないかと思われる窮屈な席でした。

31日夜、オーフィウム劇場の二階には1230席ありますが、百席くらい空いています。サラ・チャンで空き席がでるとはバンクーバーもまだまだ田舎だなあ、ショスタコビッチというので敬遠したヒトもいるかな、もったいない、気の毒、と思う一方、ありがたい気持ち。満席のカーネギーホールで聴くより、隣の席にプログラムを置いてゆうゆう聴けるオーフィームのほうがだんぜん良い。

はて、こういうとき独奏者はどうやって登場するのだっけ、指揮者が先に登場して独奏者を迎えるのか、それとも一緒に手をつないでだったか、まさか、などとつまらないことを考えていました。楽団員が着席している。コンマス(concertmaster=オーケストラの首席奏者)が出てくる。サラ・チャンが入って来る。そのすぐうしろに広上淳一がついている。客席もステージも拍手で迎える。広上も歩きながら拍手している。私は立ちあがって拍手をしたい気持ちでしたが、そんな風に思ったのは初めてです。

今夜のチャンはオレンジ色のドレス。十余年前の記憶ははるか彼方に去り、いまは見慣れた姿かたち。広上の動きも気になりません。VSOから存分に音を引き出しています。

おめあての第三楽章。重苦しいオケの音がだんだん小さくなり、厳冬のなかに春のきざしが見えたかのような瞬間を捉えて、サラ・チャンがゆっくりゆっくり舞い始める。オケとの完璧なダンス。優雅な舞いがすこし早くなり、春到来かと思った瞬間、ふたたび鈍重のオケに押さえ込まれたチャンは注意深く踊る。やがてオケは安心して、眠りにつく。眠ったのを見届けたチャンはひとり泣きはじめる。すすり泣きは消えいるかのごとく弱々しくなるが、深い悲しみがよみがえり、慟哭し、もだえる。嗚咽のなかから魂が息をふきかえし、立ち上がる。とたんにオケが目を覚ますが時すでに遅し。圧制者は高貴な魂に翻弄され、道化になったのも気づかず乱舞し、愚かな歓喜のなかでばったり倒れる。

以上、スターリン時代に生きたショスタコビッチという下敷きがあった上での印象ですが、それほで的外れではないような気がします。スターリンもレーニンも死の直前まで権力の絶頂期にありました。スターリンは倒れてからしばらくのあいだ医者もよばれずにほっておかれたようで、側近(ベリヤ、フルシチョフ、マレンコフ、ブルガーニン)による暗殺ではなかったかという説があります。いま踊り狂い、殺し狂っているブッシュ一味もばったりいくでしょう。

広上とVSOがチャンに操られたかのように激しく舞い、ばったり倒れた途端に観客は総立ち、万雷の拍手。マチネのときより少々客層が上のようです。ここだけの話、演奏の出来は前日のほうが上でした。とはいえ、絶品。サラ・チャンのショスタコビッチはもういちど聴きたい。広上淳一へもカムバック・コールを送ります。

まくあいにチャンのサイン会があるので、ホールへ急ぐと、幸いにも前から八番目に並べました。オレンジのドレスのまま現れたチャンは演奏時の深刻な顔ではなく、明るい顔。プログラムやCDの写真にある妖艶な感じでもありません。観客席からは堂々たる体躯に見えましたが、おばさんではない。貫禄はあってもやはり二十四歳、背は私より低く可憐なる乙女。

サインのしかたにアキコ・マイヤーズやラン・ランより心がこもっている感じがします。私の前のひととは一、二分のあいだ親しげに言葉を交わしていました。わたしがプログラムとCDの解説書のふたつにサインを頼むと、黒っぽいプログラムは銀色、解説書の白っぽい頁は黒とペンを使いわけたので、VSOの長井明さんがチャンは気配りのあるヒトだと褒めていたことを思い出しました。ランランもマイヤーズも黒のペンしか持っていませんでした。有名人のサインをもらうなどは恥ずかしいことだと去年までしたことがなかったのですが、やってみると新たな発見があり、まあいいでしょう。

客席に知人の姿を見かけたので、家に帰ってから電話をすると、サラ・チャンはこれまでバンクーバーに三回きて全部聴いたが、今日の曲は退屈で寝ていたといいます。あのショスタコビッチを聴けないヒトの不幸を考えていたのに、せっかく来ても寝るとは、なんと罰当たりなことを。家で寝てなさい。そういえば楽章のあいだでぱらぱら拍手がおきたが、さては居眠り族の仕業であったか。

オイストラフのライブ録音、観客の咳は聞こえますが、楽章のあいだに拍手するのは皆無。バンクーバーにオーフィームはいらない、よき聞き手のために千人のホールがあればいい。バンクーバー、利点だけではないなあ。


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