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過去⇔現在を行ったり来たり・ときどき未来へも@バンクーバー 

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911 九周年

1988年、トロント時代に、いつかはバンクーバーに住みたいと思って北バンクーバーに家を買った。買ったとたんに借りたいという家族が現れたのはありがたかった。

かれらは十余年のあいだ住み続けたが、やがて夫婦は別れ、女性のほうが別の男性と一緒に住み続けたらしい。彼らが家を出たいという連絡があったのは、トロントでの仕事をやめてバンクーバーに住もうと決心した2000年のことだった。

2001年の初めに賃貸契約を終わらせ、夏に北バンクーバーの家を訪れた。

家の中は荒れていた。壁紙はところどころ破れ、敷き詰めのじゅうたんは汚れて床から浮き上がっていた。主寝室のじゅうたんや天井についていた古風なビームが取り払われ、地下室へ降りて行く階段の踏み板が安っぽいものに替わっていた。

売るにしろ住むにしろ手入れが要る。

地下室に寝泊りすること約二ヶ月、床、壁、ドアを新しいものに替え、これなら買い手もつくだろうという所で日本にもどった。

日本時間もまだ9月11日だったろうか。

テレビでスティーブン・キング原作の映画を見ていた。

アメリカのとある田舎町の住人たちが仲良くくらしている。町によそ者がやってくる。その男はちょっとした仕掛けをしてひとりの住人に小さな疑惑を植えつける。もしかして隣人がやったのではないか・・・

疑惑がほかの住人に広がり、やがて憎悪の念に変わる。よそ者の仕掛けとは知らない隣人同士が互いに憎みあい殺しあいがはじまる。 

よそものの正体はデビル。デビルは古代の昔からときおり人間世界に現れては人間たちを殺しあいに導いてきた。数々の戦争はすべてデビルの仕掛けからおきたものである。

映画を見終わってチャンネルを替えたら世界貿易センタービルが燃えていた。デビルがやったのだと思った。

その年の暮れから北バンクーバーの家に住み、さらに車寄せ、風呂場を直し、裏庭に面している小部屋の壁を取り払いバルコニーをつけた。台所を直したいと思っているのだが決めかねている。



911九周年のアメリカ。憎悪という油に恐怖という火をつけようとしている。

そのことをアメリカ在住の冷泉彰彦氏が書いている。


 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)




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 ■ 『from 911/USAレポート』               第475回
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「闇の中の911、混乱と分裂の9周年」

 この号が配信される11日の土曜日は、911から9周年にあたります。思えば、
2001年の9月12日に「一夜明けて」という題名で始めたこのコラムでは、事件
の直後のアメリカの風景をお伝えすることから始め、そして「あの日」の周年記念日
については、過去8回それぞれの日の表情を、空の色を、人々の声をお伝えするよう
にしてきました。ですが、今年はどうにも風向きが違うのです。

 この911という日付、そして「グラウンドゼロ」と呼ばれる旧世界貿易センター
跡、そのどちらもが政治によって、いや政治の思惑を横糸にして、言論の暴力を縦糸
にした粗い布に覆われるようにして、闇の中に囲まれてしまったように思えるからで
す。それは一つは「グラウンドゼロ近隣のモスク建設問題」であり、「オバマ大統領
はイスラム教徒」という都市伝説であり、そして「コーラン焼却」をほのめかして世
界を脅迫するフロリダの「牧師」の問題です。

 ここ数日のこうした問題に関する議論は、911の犠牲者への追悼も、事件後に事
件へのリアクションとして起こされたアフガン戦争やイラク戦争の歴史への冷静な検
証も、なにもかもを不可能にしてしまいました。例えば、過去8回の慰霊祭を見事に
取り仕切ってきたブルームバークNY市長は、モスク建設問題に関して「憲法上個人
の権利」と表明しただけで批判の対象となり、多選批判も含めて政治的立ち往生に
至っています。今回の「コーラン焼却」問題への立場を問われた市長は「これも憲法
上は自由。以上」と吐き捨てて会見を打ち切っていました。それは、NYの街を市民
と共に再建してきた市長が初めて見せた「投げやりな」そして「老い」を感じさせる
表情でした。

 今回の「コーラン焼却という脅迫」を行ったジョーンズ師なる人物は、勿論「草の
根保守」を代表しているとは言えません。さすがのペイリン女史も「やめて下さい」
というコメントを出していますし、インターネットの匿名ブログ以外のまともなメ
ディアでは支持はほとんどありません。ですが、そうであっても今回の騒動の背景に
は「草の根保守の屈折した心情」があるのは間違いないと思います。10日の記者会
見でオバマ大統領は「どうして911から9年を経た現在になってイスラムへの憎悪
が増しているのか?」という質問に対して「景気など様々な不安や怒りが社会全体に
増しているという背景」を理解していると述べていましたが、教科書的とは言えそう
した認識に間違いはないでしょう。

 ですが、今回の騒動によってオバマは神通力をまた大きく失っているのも事実です。
同じ会見で「とにかく911後の8年間、ブッシュ大統領は、敵はあくまでテロリス
トであり、イスラム全体は敵ではないというドクトリンを掲げ続けました。そのこと
を賞賛しつつ守りたい」というようなことを言っていました。唐突にブッシュを持ち
出したのには、勿論「超党派的」な言い方を選んだということもありますが、現状で
は「イスラムとの和解」を国内で口にすると、保守派から「やっぱりオバマはイスラ
ム」と言われかねない中で、ブッシュの威光に頼らざるを得なくなっているのだと思
います。そういう点では、単なる「国際協調派のリベラルで黒人」のオバマが「感情
的に嫌い」という保守派のここ数カ月の「バッシング」はボディーブロウのように利
いてきているのです。

 アメリカでは、歴史上何度もこうした袋小路を経験してきました。第一次大戦に参
戦し、勝利の後に国際連盟の設立と民族自決を世界に訴えたウッドロー・ウィルソン
大統領は、お膝元のアメリカで連盟加盟の批准に失敗し、失意のうちに脳溢血に倒れ
ています(ウィルソンには人種差別的という問題もありますが、それはさておき)。
はるか昔には、リンカーンが国家分裂を戦争によって阻止し、しかも自身が凶弾に倒
れつつも実現した奴隷解放は、南部では実質的に骨抜きにされた歴史があります。第
二次大戦の戦勝は、しかし共産主義という見えざる敵への恐怖から「赤狩り」の嵐を
引き起こしました。

 今また、アメリカは回復しない景気、グローバリズムを享受する層と割りを食って
いる層の分裂に、国家的な危機を迎えています。その経済や産業構造の問題を直視す
る代わりに、多くの人々が「黒人エリートという自分たちとは違う種類」の大統領の
権威を傷つけることで、フラストレーションを解消しようとしているわけで、「オバ
マはイスラム」という都市伝説は、彼らに格好の話題を提供しているわけです。これ
に加えて「モスク問題」「コーラン問題」が出てきていますが、これも保守派の深層
心理としては反オバマの情念の派生型ということになると思います。

 それにしても「コーラン焼却の脅迫」というのは「恐怖によって人を操ろう」とい
う定義に照らしてみれば、テロリズムの一種と言って構わないでしょう。以降は、私
の個人的な感慨ですが、このジョーンズ師なる人物が、このフロリダの「教会」に赴
任する前に(兼任していた時期もあるようですが)ドイツのケルンで宗教活動を行っ
ていたということに引掛かるものを感じます。ジョーンズは、ケルンで「博士号を詐
称した」として罰金刑を食らったことがあるという報道もあるようですから、決して
ハッピーではなかったのでしょう。「ヨーロッパのアメリカ人」として「少数者意識」
を持つ中で「プロテスタントの本場」への何らかの幻滅を感じたということは十分に
ありえます。

 その一方で、ドイツはトルコ系を中心に移民を受け入れ、移民との共生と同化に苦
しみつつ、生きている社会でもあります。そこで、「ヨーロッパの白人社会では少数
者」である「ヨーロッパのアメリカ人」という「被差別者」の屈折を「更に異質な存
在」として実際に見聞したトルコ系への蔑視なり憎悪に転化したという可能性がある
ように思います。このジョーンズという「牧師」の「カイゼル髭」にも似た異様な口
ひげを見ていると、どうしてもそんな詮索をしてしまうのです。

 仮にこのジョーンズのドイツ時代に何らかの屈折があったとすると、その物語は、
他でもない911の実行リーダーとされているモハメド・アタの軌跡にも重なってし
まいます。アタは、エジプト出身の理系エリートで、ハンブルクの工科大学に留学中、
そしてハンブルクで職を得る中で、イスラム原理主義に接近しています。これも推測
ですが、ドイツでの生活が上手く行かない中で「人種差別をされている」という被害
者意識を自分への言い訳にする中で精神のダークサイドへ行ってしまった、更に元来
は「欧米寄り」であった自分の過去から思い切り逆に振るように「イスラム原理主義」
に行ってしまったということなのではないでしょうか?

 仮にこの両名がそのような心理ドラマを通過していたとしたら、私は改めて怒りを
覚えます。EUそしてドイツは、様々な代償を払ってキリスト教系住民とイスラム教
系住民の共存を模索しています。その苦悩や努力を誠実に理解することなく、自分探
しの結果そのどちらかに肩入れして、もう一方を激しく憎悪する、そしてアタの場合
は「欧米思想の総本山であるアメリカ」に敵意を向け、ジョーンズの場合は「イスラ
ム世界全体」への憎悪を募らせたわけです。その結果、アタが世界貿易センターに
突っ込んだ9月11日に、同じようにジョーンズはイスラム教徒の自尊心に挑戦する
かのようにコーランを焼こうと言っていたのですから、何ともやり切れません。

 では、こうした「過激思想」というのは現代社会に宿命的なものなのでしょうか? 
またこうした過激思想に走った人間は、問題を起こさないように隔離したり、管理し
たりするしかないのでしょうか? そもそも、どうしてこうした過激思想が一定の支
持を集めてしまうのでしょう? 私には根本的な解決策はありません。また、一部に
ある「オバマは怖がらずにコーラン焼却を止めさせる大統領令を発動すれば支持率が
10%はアップするのに、臆病だ」という批判も、私にはあまり賛同できません。前
に述べたように過度に理想論の立場に立って強権発動をするのはワナにはまるような
ものだからです。

 一つの手掛りを感じたのは、9月9日に放映された『レイチェル・マドウ』という
MSNBCの政治トークショーでした。司会のマドウは、リベラルの女性政治評論家
で、スタンフォードを出てオクスフォードでドクターを取った俊秀らしく中道主義や
現実主義のレトリックが上手く、若い視聴者に人気があるキャスターです。ですが、
ニューヨーク・タイムスのコラムニスト、ゲイル・コリンズを迎えての対談では、コ
リンズの言う「5%ドクトリン」なる理論を中心に情緒的な議論を展開していました。

 コリンズの「5%ドクトリン」というのはメチャクチャで、要するに精神病者や犯
罪常習者を別として(彼らは矯正も隔離も可能なので)社会には常に5%は「クレー
ジーな人」がいる、そのことを前提にしなくてはならないというのです。そのクレー
ジーな人というのは、「グランドキャニオンで立入禁止の柵を乗り越えて崖下を覗き
たがる人」であり「武装の権利を誇示するためにマシンガンを持ち歩いている人」だ
というのです。そして今回の「牧師」も、この「クレージーな5%」の一人なのだか
ら、「スルー」すべきだというのです。

 要するに、メディアも政府も無視するべきだというのですが、この点に関しては確
かに今回は過剰な騒動となった点は否定できません。ですが、問題は彼女たちの発言
の姿勢です。ここにあるのは明らかに「草の根保守」を見下す姿勢に他なりません。
要はバカにしているのです。確かに彼女たちの批判は、ジョーンズ師に向けられてい
るのは間違いありません。ですが、紛れもないリベラルのエリートである彼女らが、
ジョーンズ師を「クレージーな5%」だと見下すことで、5%の背後にいる15%い
や30%以上の保守層、つまり「オバマは嫌い、コーランを焼くのは馬鹿げているが、
イスラムも嫌い」という層をまとめて「崖の下を覗いたり、マシンガンを持ち歩いた
りするクレージーな人」と言う括りでバカにしていることになるのです。

 この辺りのいい加減さと自覚や反省のなさというのを仮に減らすことができれば、
少なくとも自分たちが主流派のエリートであるにも関わらずチャレンジャー的な攻撃
姿勢を持っていることが、反対派には巨大な権力に見えているというあたりに自覚を
持ってもらうことができれば、もしかしたら状況は好転するのではとも思います。オ
バマ個人に関しては、もうやれることはやっているようにも思い、可哀想な気もする
のですが、こうしたリベラル系の知識人たちにはまだまだ改善の余地はあるように思
います。

 ところで、オバマ大統領やゲイツ国防長官は「コーラン焼却」が実行されてしまう
と、アフガンやイラクに派遣されている米兵の危険が増すからダメだというロジック
を使っています。確かにそうかもしれませんが、私にはそれよりも、野蛮なイスラム
法によって「石打の刑」を宣告されている女性たちや、自身の愛する男性と結ばれる
と一族郎党が「名誉のため」に自分たちを殺害に来る、そんな境遇に置かれている女
性たちを更に追い詰める、そちらの方が心配です。

 勿論、アメリカがイスラムに対して「お行儀よく」していれば、イスラム圏で穏健
な宗教改革による人権の拡大が進む、そんなに事態は甘くはないでしょう。ですが、
他でもないアメリカが徹底的に嫌われて行くならば、その弊害はそうした弱い部分に
行くのではないでしょうか?

 そんな中、問題のジョーンズ師は、前夜になって息子や近所の聖職者を通じて「コ
ーラン焼却は止めた」と述べたようです。それはともかくとして、今週の秋の空の深
い青、思わず震えるような夜の寒さは、紛れもない「あの日」の季節が巡ってきたこ
とを感じさせます。今年も土曜日の朝には、恒例となった四回の黙祷を含む慰霊祭が
行われるようです。晩には、これも恒例となった「光の塔」も再現されるそうです。
モスク騒動に、コーラン騒動、そして他でもないNYのブルームバーク市長もこうし
た問題に振り回される中、せめて9月11日の一日だけは静かであって欲しいもので
す。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)(
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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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